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この本の読み方
研究・実測・経験知を区別しながら、改良メダカを順序立てて理解するための入口です。
3ページこの本は、どんな本か

中身は、大きく3つのまとまりに分かれています。
飼育のこと … 毎日のこと(水、餌、容器、季節) 病気のこと … 困ったときのこと 累代と遺伝のこと … 殖やす、選ぶ、記録するときのこと
並び順は、知りたい順ではなく、必要になる順です。
遺伝の話がいちばん面白いところですが、飼育が整っていないと、その知識は使えません。 過密で育ちが止まれば、形質が出ているかどうかの判定も止まってしまうからです。
全部を読む必要はありません。
飼育の章と病気の章には、それぞれ入口の1枚を置きました。「はじめての人は、ここから」と「見つけたら、まずここ」です。困ったときは、各章の入口から必要な項目をたどれる構成になっています。
どのページも、いちばん下に「+ もっとくわしく」があります。 本文は読めば分かるように、深い層は調べる人にも足りるように書き分けています。
この本に、写真はありません。
メダカの見え方は、容器の色や光でまるで変わります。写真は、そのときの条件を写しているだけのことがあります。そのかわり、図と、確かめた資料を置きました。
研究の背景・詳しい説明
一つだけです。分かっていることと、分かっていないことを、混ぜずに書く。
メダカは、世界中の研究室で使われてきた魚です。卵の育ちは39の段階に分けて記録されています。ところが——飼育や病気や品種のことになると、確かめられていないことだらけです。
よく知られている話でも、出どころをたどると見つからないことがあります。それを「よく知られているから正しい」として書くと、間違いが増え続けます。
ですから、この本では3つに分けて書きます。
確かめられていること … 資料を示します 言われていること … よく当たる目安として書き、断定しません 分かっていないこと … 「分かっていません」と書きます
3つ目がいちばん大事です。 分からないと書いてあるページは、書き手が調べていないのではなく、世の中にまだ答えが無いということです。
なぜ「必要になる順」に並べたのか
知りたい順に並べると、遺伝の章が先に来ます。ですが、順番を逆にすると、こういうことが起きます。
過密で育ちが止まる → 形質が出ていないように見える → 持っている子を「持っていない子」として外してしまう
飼い方の問題が、遺伝の結論になってしまうのです。だから飼育が先にあります。
同じ理由で、病気の章がその次に来ます。死なせてしまえば、記録も系統も残りません。
誰が書いているか
研究者ではありません。毎日メダカを扱っている者が書いています。
それには良い面と、悪い面があります。
良い面 … 現場で本当に起きることを知っています。数だけは見ています 悪い面 … 見ているのは自分の環境だけです。思い込みが混じります
だからこの本では、論文で確かめられたことと、私たちの経験を、必ず分けて書きます。 経験のほうは「目高工房江戸の管理例では」と書いてあります。
そのうえで、両方を並べたときにいちばん役に立つと考えています。論文は理由を教えてくれますが、明日どうするかは教えてくれません。経験は明日どうするかを教えてくれますが、なぜかは教えてくれません。
写真を載せない理由(もう少しくわしく)
メダカの色は、背景の色で変わります。 黒い容器で見た魚と、白い容器で見た同じ魚は、別の魚のように見えます。光の角度でも変わります。
つまり写真は、「その個体がどう見えたか」の記録であって、「その形質がどういうものか」の説明にはなりにくいのです。
そこで、この本は図と言葉で説明します。形質図鑑では、品種を「持っている部品」に分解して並べています。写真より、そちらのほうが再現できると考えました。
- Stages of normal development in the medaka Oryzias latipes — Takashi Iwamatsu/Mechanisms of Development 121(7-8), 605-618/2004年
※ ページの中でも、確かさは場所によって違います。本文の「分かっていません」という書き方に、そのつど注意してください。
この本の約束

① 数字には、どこで確かめたかを添えます
出どころが分からない数字は、そう書きます。よく使われている目安でも、確かめられていなければ「確かめられていません」と書きます。
② 薬の名前と量は、書きません
病気の章では、見分け方・防ぎ方・考え方までを書いています。薬の種類と量は、別のところにまとめてあります。書く場所を2つに分けると、片方を直したときに必ず食い違うからです。
③ 人を評価する道具には、しません
病気や失敗の話は、放っておくと必ず「どこから来た魚か」の話になります。この本は、その表を作りません。
水が違えば、同じ魚でも結果が変わります。難しいのは、その魚が弱いからではなく、育った水と迎える水が違うからです。
④ 本文は、読む人だけに向けて書きます
書き手の都合や、身内向けの話が本文に混ざらないようにします。読む人のための本文であること——それがこの本の基本方針です。
研究の背景・詳しい説明
この本には、2種類の数字が出てきます。
確かめた数字 … 資料を示します(巻末に一覧があります) 経験の目安 … よく当たりますが、確かめられた定数ではありません
たとえば、卵が孵るまでの目安として使われる数字があります。実際よく当たります。ですが、出どころとなる研究をこの本では確認できていません。 だから「当たるけれど、確かではない」と書いてあります。
当たることと、確かなことは違います。 ここを混ぜないのが、この本のいちばんの約束です。
② 薬のこと
理由は2つあります。
食い違いを防ぐため … 同じことを2か所に書くと、片方を直したときに必ずずれます 量は環境で変わるため … 水の量、水温、魚の状態。文章にした瞬間に、当てはまらない場面が出ます
そのかわり、この本ではなぜ効くのか、いつ効かないのかを書いています。理屈が分かっていれば、途中でやめてしまう失敗や、足しすぎる失敗が減ります。
③ 評価しない、ということ
これは、この本でいちばん強い約束です。
病気や失敗を集めて地域や生産者ごとに並べれば、表ができます。 その表は、読む人には便利に見えます。
ですが、その表は誰かの商売を壊します。 そして——当たりません。
水の硬さや性質は土地の地質で決まります。その土地に合ったやり方で、立派に育てておられる方ばかりです。同じ魚を、その土地で飼えば元気に育ちます。
ですから、この本が地域の名前を出すときは、水の性質を説明するためだけです。そして記録として残すようお願いしているのは、自分が変えられること(水合わせのやり方、迎えた直後の餌、分けておいた期間)だけです。
難しさは、ぼかしません。 水が大きく違う地域から迎えるのが難しいのは事実です。ぼかすと、かえって魚を死なせます。必要なのは、あきらめることではなく、覚悟して迎えることです。
④ 読む人だけに向けて書く、ということ
本の中に、書き手の事情が混ざることがあります。作っている仕組みの話、身内への申し送り、宣伝。
そういうものは、読む人には関係がありません。 この本では、本文にそれが混ざっていないかを機械でも調べています。見つかれば直します。
この4つを書いておく理由
約束を先に書いておけば、読む方はこの本の限界も含めて判断できます。「書いていない」ことにも意味がある、と分かるからです。
そして、書く側も縛られます。次に書き足すときも、この4つに合っているかを必ず確かめます。
- Stages of normal development in the medaka Oryzias latipes — Takashi Iwamatsu/Mechanisms of Development 121(7-8), 605-618/2004年
※ ページの中でも、確かさは場所によって違います。本文の「分かっていません」という書き方に、そのつど注意してください。
品種の名前は、読めます

品種名は、特徴を並べたものだからです。
たとえば、こういう名前があったとします。
アルビノ透明鱗ラメ幹之ヒカリダルマ
長くて、呪文のようです。でも、区切って読むとこうなります。
アルビノ(目が赤く透ける) 透明鱗(エラ蓋が赤く透けて見える) ラメ(鱗に光が出る) 幹之(背中に青白い光) ヒカリダルマ(ヒカリ体型+ダルマ体型)
5つの特徴が並んでいるだけです。新しい生きものではありません。
そして、この本には協会の分類にある特徴が全部入っています。
数は書きません。 協会の一覧は、少しずつ増えています。
2022年の版 … 44の特徴 そのあとの版 … アースアイ、プラチナアイ、口内光、側面光、ヒレ美、パウダー などが加わりました
そして、減ったものもあります。 ブルーアイは、消えたのではなくアースアイ(青)として整理されました。
ですから、足し算では数が合いません。
この本は、数ではなく中身のほうを合わせています。 いまは第5版(2025年9月)まで取り込んであります。分からない言葉が出てきたら、その名前で探せば、説明が出てきます。
覚えるのではなく、読む。 それがこの本の使い方です。
品種と系統は、別のものです
ここは、名前の話でいちばん大事なところです。
品種 … 特徴の組み合わせにつけられた呼び名 系統 … その魚がどうやって受け継がれてきたかという、つながり
同じ品種名でも、系統が違えば中身は違います。
別の人が、別の魚から、別の道すじで組み立てれば、出来上がりの呼び名は同じでも、持っているものは同じではありません。
ですから——同じ名前の魚を2軒から迎えて掛け合わせても、揃わないことがあります。
品種名は、揃うことを約束していません。 約束しているのは、見た目の特徴の組み合わせだけです。
研究の背景・詳しい説明
多くの場合、こう並びます。
体色・目・鱗など「体そのもの」の特徴 → 光り方 → 柄 → ヒレ → 体型
ですから、うしろのほうに体型が来ることが多いのです。「〜ヒカリ」「〜ダルマ」で終わる名前が多いのは、そのためです。
ただし——必ずそうとは限りません。 呼びやすさで順番が変わることもあります。順番よりも、どの言葉が含まれているかを見る方が重要です。
もう1つ、名前には「別の系統」があります
品種名のほかに、ハウスネーム(作った人や店が付けた愛称)があります。
品種名 … 特徴を並べたもの。誰が見ても同じ意味 ハウスネーム … その系統に付けられた名前。中身は名前から分からない
どちらが良い悪いではありません。ハウスネームは、その人が作った系統を指す大切な名前です。
ただ、買うとき・掛けるときに困るのは、後者です。 名前からは、何が入っているか分かりません。
ですから、こう考えてください。ハウスネームで買ったら、特徴を自分で書き出す。
体色は何か 鱗はどうか 光はどこに出ているか ヒレと体型は
これを1回書いておけば、次に掛けるとき、何と何が混ざるのかが見えます。 名前のままでは、永久に見えません。
同じ名前でも、中身が違うことがあります
これはこの本で何度も書いてきたことです。同じ呼び名でも、作った人が違えば、中に入っているものが違うことがあります。
逆もあります。別の名前なのに、中身が同じこともあります。
どちらも、名前ではなく部品で見れば分かります。
知らないうちに同じものを2つ買っていた——これは、名前で追いかけているときに起こります。
名前が長いほど、そろえるのは難しくなります
特徴が5つ並んでいる品種は、5つの特徴を同時にそろえるということです。
それぞれが4分の1で出るとしたら、5つ同時にそろう子は…と考えると、採る数の問題になります。名前の長さは、難しさの目安でもあります。
逆に言えば——長い名前の品種を見たら、それがどれだけの積み重ねかが分かるということです。誰かが何代もかけて、1つずつ重ねてきたものです。
まず、名前を分解してみてください。 そこから、この本のどのページを読めばいいかが決まります。
作った人、保っている人、重ねている人
ひとつの品種には、3つの立場の人が関わります。混ざりやすいので、分けておきます。
作った人 … はじめてその形にした人 保っている人 … 崩さないように維持している人 重ねている人 … そこから自分の代を進めている人
どれも、やっている作業が違います。
そして——作ることだけが値打ちではありません。 保つ人がいなければ、その品種は数年で消えます。この本の「系統を、続けるということ」に書いたとおり、続けるほうが難しいのです。
家ごとの名前について
作った人が、自分の系統につけた名前があります。
同じ特徴の組み合わせでも、家ごとに違う名前がつくことがあります。 逆に、同じ名前でも中身が違うことがあります。
これは不正でも混乱でもありません。名前は特徴の呼び名であって、血の証明書ではない——ただそれだけのことです。
系統とは、途切れないことです
系統の中身は、つながりです。途切れれば、同じ名前で呼んでいても、それは別のものになります。
だから、残すべきものが決まります。
どこから来たのか 自分のところで何代回したのか 途中で何を入れたのか
迎えるときも、この3つを聞いてください。送り出すときも、この3つを添えてください。
名前を守ることより、つながりを残すことのほうが、ずっと難しいことです。
- 改良メダカ品種分類マニュアル(第2版) — 日本メダカ協会/業界の分類基準(論文ではありません)/2022年
- 日本メダカ協会公式ガイドライン 改良メダカ品種分類マニュアル 第5版 — 日本メダカ協会 品種分類部会/日本メダカ協会/2025年
- 改良メダカの全特徴44種類の一覧表 — 改良メダカWEB図鑑(日本メダカ協会公式ガイドライン 改良メダカ品種分類マニュアルにもとづく解説)
- 改良メダカ品種分類案 補足説明(系統と形質のちがい) — めだかの館(日本メダカ協会の品種分類案にもとづく解説)
※ ページの中でも、確かさは場所によって違います。本文の「分かっていません」という書き方に、そのつど注意してください。
飼育と環境
水・餌・容器・季節・輸送。遺伝や病気を考える前に必要な、魚を安定して飼うための土台です。
30ページ健康と病気
症状だけで病名を決めず、環境・呼吸・病原体・二次感染を順に考えるための章です。
32ページ繁殖と累代
F1・F2・固定・戻し交配・近親交配など、世代をつないで形質を残すための基本を整理します。
17ページ遺伝の基礎
遺伝子・染色体・顕性・潜性・キャリアなど、以降の章を読むための共通言語を身につけます。
8ページメンデル遺伝
単一遺伝子モデルの考え方と、理論比がどのような条件で成り立つのかを理解します。
5ページ複雑な遺伝
多因子、連鎖、上位性、複数アリルなど、単純な3:1だけでは説明できない遺伝を扱います。
9ページ表現型のゆらぎ
浸透率・表現度・性差・環境差など、「持っている遺伝子」と「見える姿」が一致しない理由を扱います。
9ページデータと証拠
理論値と実測値、サンプル数、Evidenceを分け、どこまで分かっている情報なのかを読み解きます。
7ページ当店で育ててみて
ここから先は、研究ではありません。目高工房江戸が育てながら感じてきたことです。数えた記録ではないので、確かめられたこととは分けて読んでください。
10ページ売ること・送ること
関連する知識をまとめた補章です。
8ページ本の終わりに
関連する知識をまとめた補章です。
3ページ形質の分解図、品種の逆引き、巻末の出典一覧は、メンバーパス・サブスクコード・合言葉をお持ちの方にご覧いただけます。